アカシアの森法律事務所 本文へジャンプ アカシアの森法律事務所 弁護士 今井 正 (青森県弁護士会所属)
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2012年3月12日(月)
線路と思い出は続くよ

1、十鉄廃止へ

十和田観光電鉄がとうとう鉄道事業から撤退する模様だ。「とうとうてったい」・・「とうてつ」の呼び名はここから来ているのだろうか。

市民からは賛否両論あるようであるが、いつも電車がガラガラだったことは争いがない事実だろう。

だけど、夕日で空が茜色に染まる中、ゆったりとゴトンゴトンと走る電車の姿は十和田市民の故郷の原風景ではないだろうか。十和田市から遠く離れたところで就職した元高校生は帰省するときっと寂しい思いをすることだろう。

2、ここが駅ビルなのか!

私が初めて十和田市駅で十鉄に乗った時を思い出す。

まず駅ビルが静かだ。震災よりずっと前のことだが、すでに節電モードだった。駅ビルとは街一番の活気がある建物と思っていた私は、駅改札口がある二階に上がるまで本当にここに駅があるのか、「エキビル」という名称の雑居ビルなのではないかと疑った。

切符を買い、階段を下ってホームに降りると、幸運なことに電車がすでに待機していた。私は誰もいない車両に乗り込んだ。他の乗客はといえば、2、3車両離れたシートに老年の女性が丸くなって眠りこむように座っているだけだった。現代美術館のジャイアントおばあちゃんの縮小版のようなその女性はピクリとも動かなかった。他に人はいない。もしかしたら、あのおばあちゃんも現代美術ではないか・・なんて感じるほど絶えて人通りがなかった。

そうか十和田市民は時刻表を熟知していて、発車間際に乗り込んでくるのだと私はじっと発車時刻を待った。全車両禁煙のはずであるが、たき火をしても誰にも迷惑をかけない気がした。待つこと10分くらい後、数人の乗客が乗り込んできたものの、依然七輪でバーベキューをするくらいの余裕はある。そしてなんとそのまま電車は出発してしまったのだ。

これでは十和田市の空気を三沢市に運ぶだけのようなものだ。こんな便が毎回続いたら、赤字運行にならないはずがない。

しかしながら、電車が走り出すと車窓からの田園風景は私の目をくぎ付けにした。豊かな緑に囲まれた田園地帯を電車はのんびりとぽくぽく進む。いつしか「いい日旅立ち」のサビの部分を鼻唄でフムフムと歌った。「線路は続くよ どこまでも」も捨てがたいが、いかんせん三沢市駅までの道のりは近すぎた。私の用事は三沢市の市役所で法律相談を担当することだ。しかし、風光明媚な眺めのおかげで三沢市駅に着くころにはすっかり旅情にひたっていた。法律相談をやる気分ではない。駅前で三沢名物ほっき丼を食べて温泉に直行しよう。そんな気分になった。

三沢市駅に到着するまで、いくつか申し訳程度に停車駅があった。十鉄もこんな駅に降りる奇特な乗客はいないと踏んだのか、駅員さん不在の駅さえある。鉄道もいろいろあるな・・ふと、私の脳裏にフラッシュバックで忌まわしい思い出が甦ってきた。

3、地獄への片道切符

東京で電車通勤していたころの話だ。

首都圏のラッシュ時は、車両内は阿鼻叫喚の巷と化している。大げさな話ではない。

ホームに電車が入ってくる。すでに車両内は立錐の余地のないほど乗客でギュウギュウに混雑している。なかには苦しさのあまり白目をむいている中年男性までいる。そして車両内にいる乗客は新たに乗り込もうとホームで待つ乗客を憐れみの目で見る。乗ればこうなるぞと。

電車がホームに停車しドアが開く。どどっと乗客が降りる。降りる乗客が先なのだ。でないとみんな終点まで行ってしまう。また、この「どどっと」に乗じないと降りられない。たまたま座席で居眠りをしていてこのタイミングを逃した乗客があわてて「降りまーす」と声をだしても、もはや時すでに遅し。すでにホームで待ち構えていた乗客がえいやっと勢いをつけて乗り込んできていて、その声はかき消されてしまう。ホラー映画で生身の人間1人に多数のゾンビが一斉に襲いかかるシーンを想起されたい。似たようなものだ。

そして駅員がヒステリックに叫ぶ。「もっと詰めてください!もっと詰めてください!」どこをどうすればもっと詰められるのだ。網棚の上に這い上がるしかないぞ。そして駅員は叫ぶだけではなく、実力行使に出る。ぐい、ぐいっと入口ドア付近の乗客を押しはじめる。ドアが閉まらないのだ。「痛い!痛い!」不運にも入口ドア付近の乗客が小柄な女性だったりすると押し殺したような悲鳴がもれる。乗客に人権などない。これが地獄でなくてなんであろう。

そして、どうにかこうにかドアも閉まり、ゴトンゴトンと電車は走り、次の駅に到着する。やっぱりホームにはこの電車を待ちかまえている乗客で一杯だ。するとさきほど乗り込んだばかりの乗客も同じように憐れみの目でホームの乗客を見据える。乗ればこうなるぞと。私はいつも朝の出勤だけで一日の3割ほどの体力を消費していた。どこかの私立小学生らしき子供が、何を勘違いしたか、つり革の代わりに私のネクタイをひっしと掴んだことだってある。油断すると殺される。それが都会の電車だ。

4、仁義なき終電

まだ朝の出勤時はよい。問題なのは酒席等の都合で帰りが終電間近になる時だ。体内にアルコールが入っているから体はだるい。駅の急こう配の階段を駆け上ると同時に体の中を別のモノが駆け上ってくる気がする。並んで一緒に走っている同僚が階段の途中で力尽きて立ち止まり、ゲロゲロやっている。駅構内にはその日最後の発車のベルが鳴り響いている。彼をその場に残し、私はホームを目指し駆け出した。さらば友よ。私は間一髪で終電に間に合った。彼を放置してしまったと自責の念に駆られたが、いやあの目は「俺に構わず先に行け」と訴えていたぞ、とすぐに自らを正当化した。このように都会の電車は人情さえ忘れさせる地獄への乗り物だ。「とうてつ」のように、郷愁にかられるようなものではない。

5、寂しさはあるものの

世界規模で著しく変化が進む現代、今後も故郷の原風景は至るところで失われていくだろう。地域住民に惜しまれつつ・・というのが電車にとっても花道なのかもしれない。


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